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ムハマド・ユヌス氏のノーベル平和賞

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今年のノーベル平和賞は、バングラデシュの金融機関「グラミン(農村)銀行」と その創設者のムハマド・ユヌス氏に贈られた。
1979年にマザー・テレサに授与されて以来の、平和賞にふさわしい選定で 喜ばしいニュースだ。
農村の貧しい人々の自立を促そうと、「マイクロクレジット」と呼ばれる無担保小額融資の仕組みを考案し、貧困の脱却に貢献した功績が評価されたのである。

この融資制度は、地域社会が返済の連帯責任を負うことを条件に、100ドル程度の小額を無担保で融資する画期的な仕組みで、家計を切り盛りする女性への融資に力を入れたという。
その出発点は、バングラデシュで起きた1974年の大飢饉だった。
フルブライト留学生としてアメリカに留学し、経済理論を学んだユヌス氏は、この大飢饉に直面して 理論と現実の隔たりに失望する。
足しげく農村を尋ねた彼が出合ったのは、1ドルにも満たない資金に困ったり、高利貸から借りざるをえなかったりする人々の現実だった。

世界で最も貧しい国の一つとされるバングラデシュでは、貧しい人は返済が出来ないと決め付けられ、担保がなければ銀行は融資しなかった。貧しければ貧しいほど、貧困から抜け出す方法がない。
彼は、担保なしに村人が連帯責任をとることで自らの手で融資が受けられる「グラミン銀行」を設立した。物資などを送る援助方式と異なり、人々が自主的な経済活動によって貧困から脱するのを、側面支援することに力点をおいたのである。

私がユヌス氏に敬意を表するのは、大きなもの、強いものが幅をきかせるグローバリズムの時代に 小さいもの、弱い立場の大切さを訴えてきた彼のやさしさに、と同時に それまでの融資の常識を覆し 貧しい人々に無担保でお金を貸し、人々の生活を向上させた上で、銀行の経営を軌道に乗せたという経営的手腕に、である。

振り返ってわが国を見るに、テレビのコマーシャルに頻繁に登場する消費者金融業者が 高額納税者の上位に名を連ね、それら業者があくどい取立てで叩かれて鳴りを潜めると、それらに融資していた大手銀行が 今度は堂々と、 高利のサラリーローン営業を宣伝し出す。
旧大蔵・財務省OBの 大手消費者金融への天下りには、呆れるばかりだ。
大手銀行の経営者や財務省高官たちに、ムハマド・ユヌス氏の爪の垢でも煎じて飲ましてやりたい。

一見豊かさが満ち溢れているかに見える今の日本に、日本人そのものがなにか間違っていると感じるのは、日本をリードしてもらわねばならない立場の、上に立つ者のだらしの無さがなせるものではなかろうか。
特に、日本銀行の出先機関のような印象しか受けない 大手銀行の倫理観の欠如がもたらした悪影響は、重大であると思う。

37年前、学業を終えて胸躍る思いで社会に出た私は、あまたある会社の中から 住友を選んだ。
当時 住友グループリーダーの一人、木村音吉氏は 「住友は浮利を追わず」 と説いてくれた。
あの精神はいずこへ消えてしまったのか。

ムハマド・ユヌス氏のノーベル平和賞を心から称えたい。
と同時に、日本にも真のノーベル平和賞を授かるリーダーが現れることを、心底願いたい。