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男のハンドバッグ

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男も おしゃれなほうがいい、と わたしも思う。
60歳をすぎれば なおのこと、少なくとも 身だしなみはきちんとすべきだと 理解はしている。

身だしなみは、清潔感と言い換えていいのだろう。
白髪の初老の男性が、背筋をピンとして 真っ白なカッターシャツに さわやかな色のスーツ姿で 街を歩いている光景は、見ているだけで 高級石鹸の香りが漂うように すがすがしい。

男も 見られている という意識が薄れると、おしゃれからは 次第に遠のくものらしいから、その意味でも 年を重ねるほどに おしゃれの重要性が増すのだろう。
やはり 年齢や性別に関わらず、おしゃれの源泉は 異性への関心にあることは、間違いない。

ちょっと苦々しいのだが、 “男が上手に年をとるために” 塩野七生が男たちへアドバイスしている十の中から (塩野七生 著 「男たちへ」 より)、

「戦術その六:恋をすること」

もう おしゃれなんか どうでもいいか、と 半分そう思いかけてきた。
所詮 われわれ女は、身だしなみ以外に真剣勝負するものを持っている男を欲している”(同 「男たちへ」 より) との言葉を、だらしなくしている言い訳に ついつい使いたくなるから、困ったものである。


ただ一つ、わたしには 若い頃からの ある物欲が抜けない。
気に入ったカバンを見ると 欲しくて欲しくてたまらなくなる性癖。
いまでは、わたしの唯一の物欲だ。

これぞ!というカバンは、なかなか見つからないもの。
男性なら 同じ感想をお持ちだとおもうが、手提げカバンを持って出るほどの荷物があるわけでなく、旅行用のポシェットでは砕けすぎだし、財布と携帯電話と手帳とめがねケースが入ればいい位の入れ物が欲しいとき、適当な大きさの気に入ったカバンというものが なかなか見つからないものである。

いわゆる 「セカンドバッグ」 という種類のカバンなのだが、どうしても女物のハンドバッグのような感じになってしまってどれもこれも気に食わない。
2、3回使っただけでお蔵入り というものが、もったいないほどある。

結局は、上着の型崩れを覚悟で 手帳とめがねケースを内ポケットへ、尻のあたりのふくらみと 腿のあたりのごわつきが気になりながらも 財布はズボンの尻ポケットへ、携帯電話はズボンの脇ポケットへ、というスタイルに落ち着いてしまう。

それでも、わたしは諦めていない。
いつか、これだ!と思える 「男のハンドバッグ」 が現れることを、夢見ている。