| サウダーデ |
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LPレコードでファドを聴いている。
アマリア・ロドリゲスが歌う 『コインブラ』 を聴いている。
続けて 『なつかしのリスボン』 を聴いている。
そして、『暗いはしけ』 を聴いている。
次第に気持ちが暗くなる。
いやな暗さではない。
心の中に抱いているなんとも言えない虚無感、つらい思い、熱烈な感情。
8年前、最後の海外の旅先となったリスボンから帰って陥った喪失感が、いま、アマリア・ロドリゲスの唄声を聴いて、よみがえった。
ファドの本質は、「サウダーデ」 というポルトガル語で表されるという。
旅の前に想起したサウダーデは 「愁」 という漢字だったが、旅を終えて確信したサウダーデは、「喪失感」 だった。
今は亡き親や友のぬくもり、無邪気だった幼い日々、もう二度と還らない懐かしい思い出。
サウダーデを思うとき、必ず描くシーンがある。
フランソワーズ・アルヌール主演のフランス映画 『過去を持つ愛情』 の一場面、ナザレというポルトガルの漁村の砂浜に喪服のような黒服を着たたくさんの女性が座り込んで海を見やって黙って砂を掌で打ち叩いているシーン。
彼女たちは海に失った夫や息子を悼んでいるのだった。
アマリア・ロドリゲスの 『暗いはしけ』 が重なるシーン。
暗いがそれでも、と思う。
それでも生きていかなければならない。
本当のエネルギーは悲しみから生まれるもの、と信じて。
サウダーデに打ちのめされそうになったとき、思い起こす詩がある。
ワーズワースの 『草原の輝き』 という詩。
草原の輝けるとき―花美しく咲きしとき―再びそれは還らずとも嘆くなかれ―その奥に秘めたる力を見出すべし。
サウダーデに秘められたエネルギーは、この 「その奥に秘められたる力」 なのだ、と。
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