『生きとし生けるもの』 |
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連休の最終日の夜、久々に 骨のあるテレビドラマを観た。
テレビ東京開局60周年特別企画ドラマスペシャル、『生きとし生けるもの』 である。
「医者と患者 男二人のロードムービー」、北川悦吏子の脚本、妻夫木聡と渡辺謙の主演 となれば、見逃すわけにはいかない。
この思いに違わず ロードムービーとして見ごたえのあるドラマに仕上がっているばかりでなく、北川悦吏子の 「死生観」 に自分の老いを重ねて 様々な感情が触発された。
余命宣告を受けた 「患者」 の 「おっさん」 こと成瀬(渡辺謙)は、窓はあるが締め切った病室の白い天井ばかり見て 余命の日々を送っている。
彼は、「とっちゃん坊や先生」 こと陸(妻夫木聡)から 「死ぬまでにしたい10のこと」 を書くように メモ用紙を渡されている、が 何も書けない。
「坊や先生」 は たぐいまれな才能を持った外科医だったが、あることをきっかけにメスを握れなくなり 精神的に追い詰められ、外科を追われて内科医となっていた。
この白紙のメモを見て残念がる 「坊や先生」 に 「おっさん」 は、空気が淀んでいる病室に気づいて 「風に吹かれたい」 と言い出した。
ここから、バイクとキャンピングカーを乗り継いだ 「医者と患者のロードムービー」 が始まる。
二人とも、死ぬ覚悟の 旅が始まる。
どっぷり夜の闇に包まれた、バスのようなキャンプハウスの中の男、ふたり。
「坊や先生」 が カバンから二本のアンプルを取り出して、「おっさん」 の前のテーブルの上に置く。
一本は すぐに楽になる薬 つまり死に至る薬、もう一本は しばし楽になる薬 つまり強力な鎮痛剤、と 「坊や先生」。
たぶんカモフラージュであろう 「塩化カリウム」 のラベルを貼った 安楽死へのアンプル注射液 これを 「おっさん」 は、「怖いような 憧れるような、生きるか死ぬかを選べる魔法薬」
と呼んだ。
ドラマの中盤で明かされるが、このアンプルは 「坊や先生」 と 「おっさん」 のお守りなのだ。
「生きる権利もあるなら 死ぬ権利もあるだろう。いや 生きる権利は、義務か」 と 「おっさん」。
「おっさん」 は続ける。
「病棟の奥の部屋、自分で飯も食えず、全身 管だらけ、胃ろうで流し込んで起き上がることもできず、おしめ当てて、そこまでして 生きたいか、あれは 本人の意思なのか」
おもむろに 口を開く 「坊や先生」。
「いえ そうとも・・・医者は 命を助けたい生き物です。でも 僕は虐待ですらと思っています。・・・成瀬さんの生まれたころより医学の進歩によって、格段に平均寿命は延びました。でも
それってほんとに 人々を幸せにしたでしょうか。」
このあと、このドラマの最大の感動シーン、山の向こうのかなたから 昇る朝日、それを眺める二人の男の 輝く顔と顔。
北川悦吏子のドラマには、どうしてこうも、松任谷由実の歌が流れるのだろう。
このドラマにも、『恋の一時間は孤独の千年』 を 「坊や先生」 が口ずさむシーンがあった。
この齢になると 自分も あんな 「魔法の薬」 をお守りとして欲しくなる、悪いことだろうか。
先端医療は 若い人には、間違いなく必要だろう。
だけど、緩和ケア医療も 年寄りには、絶対に必要なのだ。
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