浄瑠璃寺 |
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どのお寺が一番好きですかと、もし問われれば、浄瑠璃寺と躊躇なく答える。
浄瑠璃寺は私にとって、そこに居たい場所、居るだけで心安らぐお堂なのだ。
大学受験に滅入る気分を紛らわせたいと、思いついた場所は、小さいとき母に連れられて訪ねた浄瑠璃寺だった。
再訪は、晩秋の小春日和の昼下がりだったと記憶する。
うす暗い本堂のなか、横一列に坐す九体阿弥陀像だけが、板扉から差し込む午後の陽を受けて、にぶい金色の光明を放っている。
サラリーマン風の青年が、中尊の前の板扉の左柱を背に、板床に脚を投げ出してうたたねをしている。
ほんとうなら不謹慎なのだろうが、その寝顔があまりに穏やかに清らかで、眠りを妨げないようにすり足で通り過ぎた。
あれ以来、いくたびか浄瑠璃寺を訪れた。
うす暗いお堂に坐すとき、あのうたたね青年の顔を安らかな気持ちで思い出せるのである。
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