文字サイズを変える |
|
東尾道駅を過ぎて 山陽本線を西へ、急に視界が開ける。 右の山手に浄土寺の多宝塔が、左の車窓からは「日立造船向島工場」の横看板が 尾道水道のすぐ向こうに見えてくる。 もうすぐ 尾道駅だ。 尾道には これまで、いくたび訪ねただろう。 ちょっと数えられない。 いくど訪ねても 飽きない。 コロナ騒ぎのいま、想いを馳せるしかないが、いつかまた 必ず訪れたい。
4月10日、大林宣彦監督が亡くなった。 遺作の映画『海辺の映画館』は、上映が延期になっている。 いつ 観られるのだろうか。 彼ほど「非戦の人」の名に ふさわしい人物を知らない。 多彩な作品を通じて、一貫して平和を訴えた人だった。 戦争を知る世代の 大切な人が、また一人 この世から去った。
彼は 晩年「戦争を語り継ぐべき責任があるのに、伝えてこなかった『うかつ世代』だ」と自嘲する。 非戦の人である彼が そう言うのだ。 「戦争について、日常的に話せるようにしましょうよ」と、続ける。「『戦争の時、あんたいくつだった、何してた』『大根食べてた』でもいい。 みなさん、平和についての一行詩をお作りになったらいかがでしょう。 今日の一行、明日の一行を。 『そこのアリンコよ、一緒に生きようね』でもいい。」
大林宣彦監督は こう綴った。「若い人に伝えます。若い人に任せます。未来の平和創りを!」 若い人だけではない。 残されたものみなに 託された、重い重いメッセージである。
尾道のまちを 歩いてみたい。 千光寺へのロープウェイ下の 艮神社の大楠の幹に触れながら、大林宣彦を偲びたい。
|