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クスノキの番人

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コロナ騒動で、家にいる時間が多い。
積ん読の本を このときとばかりに読み試みるのだが、2, 3ページ読むだけで  うとうと居眠ってしまう。
ところが この本だけは、「寝る間も惜しんで」読み切った。
東野圭吾著『クスノキの番人』である。

映画やテレビドラマでも、「東野圭吾・原作」なら まず当たりはずれはない と、安心して観劇できる。
その完成度の高さと深い余韻には、いつも感動させられる。

殺人事件とか 救いのない運命を非情に生き抜く人間像とか、そんな路線から離れて、読者がハッピーな気持ちになれる作品を、と書かれた本作は、作者の意図通りに、読む者の心に 安らぎと希望を与えてくれる。
本書では、クスノキを巡る家族愛、そして重要な伏線として 認知症が扱われている。
クスノキの霊気は、家族が死んだ後にも永遠に残る わたしたちの記憶の象徴として描かれている。

巻末であかされる「千舟」の認知症に、なにかしら 救いのような明るさを感じ取って、読者は この本を閉じることができるのではなかろうか。
この明るさが、いま コロナ騒動で滅入る わたしたちの気持ちを、未来への希望みたいな優しさで 満たしてくれる。

タイムリーな良書である。