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亀の石像のある公園

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長男は、愛媛県新居浜市の別子病院で生まれた。
わたしが新社会人として新居浜に赴任して 二年目の春であった。
責任のない立場である新入社員の生活は、家族第一で過ぎて行った。

社宅のすぐそばを、国領川(こくりょうがわ)が流れていた。
本州の西日本太平洋側に住み慣れたものにとっては、川は北から南へ流れるものとの先入観が強い。
京都のまちなかで育ったわたしにとって、川と言えば鴨川で それは北から南へ流れる川である。
だから、国領川が南から北に流れているということが 感覚的に理解できなかった。

定時で帰宅して いちばんにすることは、長男を自転車の後ろの荷台に乗せて 彼のお気に入りの場所「亀さん公園」へ向かうことであった。
「亀さん公園」には 亀の石像があったので、長男が そう名付けた。
国領川べりを 流れに沿って走る。
当時 わたしは、その方向(北)が南だと思い込んでいた。
しばらく走ると、予讃線の鉄橋が見えてくる。
その少し手前に架かる橋を渡って、国領川の向こう側 そのすぐあたりに、「亀さん公園」はあった。

方向音痴のわたしは、その公園が予讃線の北側にあったのか 南側だったのか、いまだに理解していない。
ただ、「亀さん公園」の亀の石像を撫で この公園から予讃線を走るジーゼル列車を見ているときの 長男の顔が、いちばん好きだった。

あの「亀さん公園」を訪れることは もうないであろう。
「亀さん公園」は、わたしが長男と親しく接した 数少ない思い出のひとつである。