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戒光寺の釈迦如来立像

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いま、一年で いちばん気持ちのいい時候。
風が、こんなに肌にうれしい季節はない。

2020年秋京都非公開文化財特別公開が行われている。
泉涌寺道沿いにある 戒光寺(かいこうじ)を尋ねた。
目的は、運慶・湛慶父子合作の「丈六の釈迦如来立像」。

丈六とは、1丈6尺 すなわち 約4.85m。
しかし この立像は、身の丈 5・4mもある。
台座から火焔の光背も入れると、約10mになる。
火焔光背は 上部で前へ反り立って、仏の頭上で天蓋のごとく如来像を覆っている。
大きい。

大きいだけなら、さほど驚かない。
お顔が とても穏やかである。
台座下の拝座から仰ぐと、優しい伏し目が こちらに向けられる。
宋風の色濃い造りである 長い爪、細長い目、波状形の流麗な衣文。
極彩色の跡が、ありありと残っている。
なによりも、大きい仏像にありがちな間抜け感を まったく感じさせない。
それだけ 各部位が、均斉がとれている証拠だ。
すばらしい大仏様である。

運慶・湛慶父子合作 とあるが、このお姿は 子の湛慶の作風とみた。
高知の雪蹊寺におわす 毘沙門天の雰囲気に、通ずるものを感じるからだ。
わたしの好きな湛慶の作品に、出会えた喜び。
京都では三十三間堂の千手観音坐像以外には 湛慶の仏像に出会えない、そんな思い込みを覆す ありがたい出会いであった。

心地よい風の通う泉涌寺道の帰路で、どこからともなく漂い来るキンモクセイの香りを 胸いっぱいに吸い込んだ。