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メタネーション

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コロナ禍に右往左往している いま、希望を見いだせる話題が欲しい。
そのひとつに、「メタネーション」技術がある。

近代の大きな世界的関心事は 食糧問題とエネルギー問題であり、いまも あり続けている。
これらが原因で 世界戦争が繰り返された、と言っても 過言ではない。
近ごろ よく耳にする「SDGs」つまり 持続可能な開発の17の目標達成においても、上記のふたつの問題は その要であることに 間違いない。

脱炭素社会が いま、全世界で叫ばれている。
脱炭素社会を目指しつつ エネルギー問題を解決する方策を、誰もが待ち望んでいる。
そのひとつに「メタネーション」技術が挙げられる、と わたしは期待している。


メタネーション技術は、資源エネルギー庁が力を入れている技術イノベーション政策のひとつだが、もひとつ本気度が伝わってこない。
2019年1月のダボス会議で安倍前総理が メタネーション技術(カーボンリサイクル技術 CCR)に触れた発言をしたことは、特筆できる。
民間では、大阪ガスや国際石油開発帝石, IHIなど 日本の大手各社が、独自で あるいは連携研究として しのぎを削っている。
中でも 日立造船は、社運をこれに賭しているのではなかろうか。

メタネーションとは何か、俄か勉強だが わたしは、東北大学名誉教授・橋本功二先生の論文が いちばん判りやすかった。
その要点をまとめた資料が、ネットで簡単に入手できる(「二酸化炭素リサイクルーー地球温暖化を阻止し 再生可能エネルギーによる全世界の持続的発展のためにーー」)。

メタネーション技術は、次の三つの化学式で 簡潔に説明できる。
   4HO → 4H + 2O (水の電気分解)                 ・・・(1)
   4H + CO → CH + 2HO 触媒を使った メタンガスの合成)     ・・・(2)
   CH + 2O → CO + 2HO
  (メタンガスの燃焼 蒸気タービンを用いて合成天然ガス発電)        ・・・(3)

上式の三つの「→」の 右の合計と左の合計が 等価であることが、この技術のミソである。
つまり、貯蔵および輸送インフラ技術の確立したメタンガスという中間燃料を介して 二酸化炭素を増減なくリサイクルして 発電ができる。

発電には 再生可能エネルギーを用いるのが 持続可能な発展に最も適していることは、誰もが認めるところである。
再生可能エネルギー発電の最大の欠点は、断続変動することである。
主な再生可能エネルギー源が 太陽光や風力などの自然であることから、断続変動は解消されがたい。
だから 現状は、化石燃料や原子力などのエネルギー源を用いた発電(稼働と停止が容易な発電)が主で 断続変動のない良質の安定な電力を供給している。
再生可能エネルギー源による発電は、したがって 余剰となり勝ちであり、既存の大手電力会社の“嫌われもの”である。

この余剰電力をメタンに変えて蓄え、再生可能エネルギーから直接造られる 断続変動する電力と、これにプラス、合成メタンによる天然ガス発電で造る電力を補って、断続変動のない安定な電力を供給することが、「メタネーション」の目的である。
このサイクルが完成されれば、世界中の必要とする電力のすべてが 再生可能エネルギー源で賄える という世の中も、夢ではない。

なお、水の電気分解技術は 古くから知られており、電極の改良によって 今では低い電圧でも電気分解が可能な技術レベルにある。
また 合成メタン技術は、1911年にフランスのノーベル賞受賞化学者・サバティエが発見した 古い技術であり、触媒の改良によって 今では高効率にメタンが合成できるレベルにある。

わたしが この「メタネーション」技術がすばらしいと思う理由は、次のとおりである。
 ① 技術の原理が、高校生の化学知識で 十分に理解できる。
 ② 既存のインフラ、例えば 液化ガス輸送船やガスタンクやガス配管、が 使える。
 ③ なによりも、既存の大手電力会社が厄介もの視してきた 余剰の再生可能エネルギー源由来の電力と 脱炭素の元である二酸化炭素とで、 蓄えやすいメタンが造れる。
 ④ ③で得られた合成天然ガスによる発電は、カーボンニュートラルであり、断続変動がない高品質の安定な電力が得られる。


こういう 夢のある技術は、閉塞感漂う いまの時期、うれしい話題である。
再生可能エネルギーからの電力の形で 全世界の必要なエネルギーを十分に供給できる 平和で安全な世界が、一日でも早く築かれますよう。