ハルカの光 |
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新聞を、半年遅れで整理している。 毎朝 ざっとは朝刊に目を通すのだが、記憶に残るのは第一面の見出しくらいで それもすぐに忘れて、新聞は 翌日には納戸ゆきである。 納戸が新聞であふれてるよと 家内の苦情、古紙回収日に少しでも出そうと ほぼ半年遅れの新聞整理を繰り返している。
半年前の新聞に、東京でコロナ感染者が初めて100人を超えたと、大々的に記されている。 球磨川や筑後川が氾濫して 九州142万人に避難指示との大きな見出し、胸まで水に浸かった住民の写真が 大写しされている。 喉元過ぎればなんとやらで、そのとき感じたはずの驚きや痛々しさは、遠い記憶のように空々しい。
あしたは、東日本大震災から10年。 テレビでは 特番が流れ、あのときを題材にしたドラマが いくつも放映されている。 どれも大切な番組なのだが、半年経っただけで鈍感な新聞整理を挙行している自分には 戸惑いが先立つ。
震災を扱ったドラマは、むずかしいと思う。 忘れないでほしいと思っている当事者も、ちょっとちがうんじゃぁと 感じているかもしれない、たぶん。 想像するしかない非当事者も、わかったふりできないで ちょっとイラっときてるかもしれない、たぶん。
そんななか、震災をサラッと上手に扱ったドラマを、観た。 NHK Eテレ月曜よる7時25分の「名作照明ドラマ ハルカの光」。 五話連続の 30分ドラマである。
ハルカ(黒島結菜)は、宮城の漁師の娘。 震災のとき、家族は全員無事だった。 震災前 よく笑う明るい人だった母(山下容莉枝)は、無事だったことに うしろめたさを感じ、 震災後 笑わなくなった。 そんな母との間がギクシャクして、ハルカは家を出る。 西谷(古館寛治)という男が店長を務める 名作照明の専門店で働くようになった、ハルカ。 震災後 自分の居場所を見いだせないでいたハルカは、真っ黒な海に浮かぶ光の温かさに 救われていた。
煌々と輝く夜の照明はアリガタイのだが、ときに 一枚のシェードだけの裸電球の明かりを、無性に懐かしく思う時がある。 小さかった頃 ちょっとした家出から暗くなって帰宅して、そんな明かりの玄関灯でぼんやり丸く照らされた わが家の前の路地、たまらなく懐かしい。 ましてや、照明のプロが創り出す あかり。 暗さと うまく折り合った心地よい あかり空間、毎回このドラマの もう一つの見せ場である。
最終回。 東北からやってきたハルカの父(甲本雅裕)は、震災以来ギクシャクした 妻と娘の関係を 何とか取り持とうとして、思い切って新しい家を建てようとしていること、そこにハルカの存在を感じられる照明が欲しいと母さんが言っていることを、ハルカに伝える。 帰省したハルカと 波止場で娘を待つ母。 堤防に腰かけて、穏やかな海を ふたりで眺めながら語るシーン。 「いつまで こっちに いられるの」 「あしたの朝かな。 今夜とうさんの船が帰ってくるのを見てから」 「・・・ 人生で感じる仕合せの量って、決まってると思う。 おかあさんは、ものすごく大きい仕合せが何回かあるより、ちょっとした仕合せが たくさんあるほうが、いい 」 母の顔をまじまじと見る ハルカ。 「ちょっとハルカ、なに泣いてんの、やめてよ」 「おかあさんだって泣いてるじゃん・・・ ふたりして 何してんだろうね」 「ほんと、海だって 迷惑だ」 ハルカは、楽しそうに笑う母を 久しぶりにみた。 「なに? ハルカ」 「笑って」 「なに?」 「いいから、笑って」 ふたりで 海を見ながら 笑う。 ・・・ 父が 夜の漁から帰ってくる。
漁船の光が、海の闇から あたたかな光を放ちながら、しだいにハルカの方へ やってくる。
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