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ライオンのおやつ

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中村哲さんの本を、数冊 続けて読んだ。
あのエネルギーは どこから生まれてくるのだろう、そんな素朴な ちょっと不遜な思いから、であった。
読み進むほどに 凄いとしか表現できない畏敬の念でいっぱいになり、当初の探求心など どこぞへ飛んでいった。
ひとつ、不謹慎だが 気づいたことがある。
2008年にペシャワール会職員の伊藤和也さんが武装勢力のテロリストに殺害されたころから 中村さんは、死に場所をアフガニスタンに決めていたのではなかろうか。

生あるもの、いつかは 死を迎える。
小心者のわたしでも、もう この歳になると、死を それほど恐れなくなった。
叶うものなら 死に場所を見つけたい とは思うが、それは 思い上がりである。
ただ、死へ至る苦しみは、できることなら 避けたい。
だれしも願う思いである。

いま、BSプレミアム 日曜よる10時から、ドラマ「ライオンのおやつ」が放映されている。
映画やテレビドラマになった小説は、まず 読まない。
視覚からの情報が、小説の文字を通して生まれる空想を 邪魔することが多いからだ。
ところが、小川糸の小説『ライオンのおやつ』を 家内の本棚に見つけて、テレビ放映初回が終わってすぐ、読み切ってしまった。
「ライオンの家」という 天国のような場所を、文字からも 吸い取っておきたい気持ちにかられたからである。

主人公は、幼い頃に両親を亡くし、余命宣告を受けた29歳の海野雫(うみのしずく)。
ドラマでは、土村芳(かほ)が演じている。
育ての父である叔父にも告げずに、美しい島にあるホスピス「ライオンの家」で、人生最後の日々を過ごすことを決めた。
ホスピスを切り盛りする「マドンナ」を、ドラマでは 鈴木京香が演じている。
年齢不詳の、天使のように魅惑的な 女性である。
雫は、島で農業に打ち込む青年(竜星涼)や入居者らと交流し、死や自分の人生と向き合っていく。

雫が過ごす「ライオンの家」では、入居者が もう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」がある。
ひとりひとりの入居者の人生を凝縮した「おやつ」を みんなで味わう「おやつの時間」は、小説でもドラマでも、幸せな記憶を呼び起こす 感動的なシーンだ。
もし「わたしのおやつ」を尋ねられたら 何にしようか、考えると ちょっと幸せな気持ちになる。

死に至る苦しみを和らげてくれる「ライオンの家」のようなホスピスを 死の直前に見つけられたら、どんなに安寧なことだろう。
それを空想するだけで、少し気が楽になるではないか。